名古屋高等裁判所 昭和30年(う)51号 判決
日本国憲法が施行せられた後公娼制度が廃止せられ、其の後売淫行為をさせることを内容とする営業がその存在を許されないことは所論の通りである。右公娼制度廃止後営業を許されている特殊飲食店は、客の飲食遊興の為客席で接待をし客に飲食又は遊興をさせる営業を為すものであるから、該営業を行う営業主又は右営業に従事する接客婦は正当な業務として法律上の保護を受くべきことは言を俟たない。論旨は前示紀平のは特殊飲食店に名を藉り婦女子を雇入れて売淫行為を為させ不当に其の居住を制限して不法の利益を得て居たもので、該行為は国民の基本的人権を保障した憲法第十一条第十三条第十四条第十八条第二十二条の諸規定に違反するものであるから、紀平のの婦女子雇入行為に対しては右憲法の諸規定が刑法詐欺罪の規定に優先して適用せられる旨主張するけれども、原判決挙示の各証拠によつては右事実を認め難く、仮に斯る事実ありとするも該行為は他の法令に依って処罰せられるは格別、其の故を以て正当な営業として認許された接客業者に対し原判示の如き欺罔手段を施用して金員を騙取するも刑法詐欺罪の適用外におかるべきものとする理由はない。原審は前記認定の如く被告人は浅田一子外三名と共謀の上接客業者である紀平古のに対し同女等が接客婦として真面目に就労されるものの如く欺罔し金員を騙取した事実を認め、右紀平が売淫行為をさせる為に婦女子を雇入れ居住の自由をすら制限するとの事実を認めたものではないから、原審が之に対し刑法詐欺罪の規定を適用処断したのは相当であって原判決には所論の如き憲法の諸規定に違反した違法があるとは云えないのでこの論旨も理由がない。
(裁判長判事 小林登一 判事 栗田源蔵 判事 石田恵一)